現行指導要綱の問題点 −化学 I・II −

新課程になり,数学・物理以上に目を覆いたくなるのがこの科目です。 新課程の中学の教科書を始めて見たときは,しばらく呆然としてしまいました。
原子という言葉はかろうじて出てきてますが,それが原子核と電子からなっているということが,何回教科書を読み返しても書かれていません。

「化学」とは,いろいろな物質は原子がどのように結びついてできているのか? 種々の化学反応はどのような法則に基づいて起こるのか? を学ぶ学問です。
それらを説明する化学理論の最重要のキーワードは『電子』です。化学とは電子の振舞いを究明する学問といってもいいくらいです。

もちろん旧課程では,“原子は原子核と電子からなっていること”,“ある種の原子は『イオン』という状態になることで中和などの化学反応をすること”などの化学理論の基礎となる常識は中学で学習しました。
しかし,新課程の中学理科第1分野で学んだことは,「これとこれを混ぜればこんな変化が起きるんだよ。不思議だね」でしかありません。『電子』の存在さえ教えないのですから,何故そのような反応が起こるのかの説明などできるわけがありません。

実際,新課程中学の教科書には NaOH + HCl → NaCl +H2O という最も基本と呼べるであろう化学反応式でさえ載っていません。
しかし「水酸化ナトリウムと塩酸が反応すると,塩化ナトリウムと水ができる」という現象は教わります。理屈は一切なしで…。
こんなものはとても「科学」と呼べる代物ではなく「魔法」です。
皆さんは中学で『化学』に関して何も教わっていなかったのです。

ところが,高校で学習する内容は旧課程と新課程で同じです。それまでは中学で学習していた化学の常識を新課程では化学Iで学習することになりました。その結果,旧課程化学I の多くの高校化学の基礎となる内容を化学II に移し,苦肉の策として,化学II の『生活と物質』と『生命と物質』はどちらかの章を選択ということになりました。

さらに,新課程では化学の土台である「理論化学」の各単元が,内容の関連性を無視して I と II に振り分けられてしまいました。
原子の構造と化学結合は密接に関連しています。化学結合と化学反応,化学反応と反応熱,反応熱と反応速度なども,それらの関連性の理解が重要です。
ところが新課程では,原子の構造は化学I ,化学結合は化学II,化学反応・反応熱はI,反応速度はII で学習します。
この他にも,多くの化学反応では気体が発生するにも関わらず,気体の状態方程式や蒸気圧を化学II で学習するなど,これではしっかりとした「理論=化学の考え方」を身に付けることが困難です

中学で全く化学を教わらず,高校でも化学の本質が掴めないようなカリキュラムで学習させられるのですから,『化学=魔法』のままの生徒さんが新課程になり急増したのもいたしかたないなと感じています。

「高校 理論化学」の本来あるべき姿の1例を示しておきます。

物質の構造 原子の構造(化学T)・化学結合(化学U)
物質量と化学反応式 物質量と化学反応式(化学T)
物質の三態 物質の三態(化学U)
熱化学 反応熱(化学T)・反応速度(化学U)
化学反応 酸と塩基(化学T)・化学平衡(化学U)・酸化還元反応(化学T)

なお,無機化学,有機化学に関しては新課程の区分で大きな問題はありません。

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